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第46話 夫の署名

Author: なつめ
last update publish date: 2026-08-06 06:52:11

 鷹宮邸の応接室は、昼間だというのに薄暗かった。

 重いカーテンが半分だけ引かれ、磨かれた床には窓枠の影が細く落ちている。壁に掛けられた肖像画も、銀の盆に置かれた茶器も、すべてがいつも通り整っていた。整いすぎていて、人の感情だけが余分なものに見える部屋だった。

 瑛子は、怜司の前へ一冊の書類を差し出した。

 白い表紙には、奏音の名前が記されている。

 医療判断権に関する申立書。

 怜司はその文字を見下ろした。

「目を通しなさい」

 瑛子の声は静かだった。

 怜司は書類を開く。中には、詩乃の養育環境に疑義があること、母親が感情的で、最善の治療選択を妨げている可能性があること、父親である怜司が医療判断へ関与すべきであることが、整った文章で並んでいた。

 そこに書かれている詩乃は、怜司の知る詩乃ではなかった。

 疲れ切った目で奏音の手を握っていた母親ではない。

 熱の変化を記録し、発作の時間を残し、薬の副作用まで細かく書き続けた女ではない。

 ただ、不安定で、感情的で、子供の治療を妨げる存在として描かれていた。

 怜司は、ページをめくる指を止めた。

「あなたが父親だと証明された以上、責
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